健太が呆然としたまま部屋を去り、ドアが重く閉まる鈍い音が響いた後、静寂が再び理佐の小さなアパートに訪れた。理佐は男の腕の中でしばらく放心していたが、汗と情熱の余韻に濡れた体をゆっくりと起こし、乱れたブライダルネグリジェを整えた。薄いシルクの生地が彼女の肌に軽く張り付き、レースの縁が胸の膨らみをほのかに際立たせていた。ネグリジェの裾は太ももに軽く触れ、昨夜と今朝の激しい出来事を思い起こさせるように、汗でわずかに湿っていた。理佐はベッドの端に座り、窓から差し込む朝日の柔らかな光を見つめながら、心の中で新しい現実が静かに広がっていくのを感じた。健太との別れを告げ、男の熱に身を委ねたこと。自分の声が悦びで震え、ふしだらな言葉を叫んだこと。それらの記憶は、彼女の心に鮮明に刻まれていたが、後悔の波は押し寄せてこなかった。代わりに、この男との新しい生活への期待と安堵が、彼女の胸を温かく満たしていた。
理佐はベッドに横たわる男を振り返った。彼は深い眠りに落ち、寝乱れた黒髪が額に張り付き、筋肉質な胸がゆっくりと上下していた。彼女は立ち上がり、裸足で冷たいフローリングを踏みながらキッチンへと向かった。冷蔵庫のドアを開けると、冷気が彼女の肌を撫で、卵、トマト、青梗菜が目に入った。理佐はそれらを手に取り、カウンターに置くと、慣れた手つきで朝食の支度を始めた。フライパンに油を垂らし、卵を割り入れると、ジュッという音とともに白身が固まり始めた。トースターに食パンをセットし、軽い焦げ目の香りがキッチンに広がった。スープ用の鍋に水を張り、味噌を溶かしながら青梗菜を刻む音が、静かな部屋にリズミカルに響いた。理佐の手つきは自然で、まるで何年も連れ添った夫婦のような穏やかさがあった。彼女の心には、健太との別れによる罪悪感や混乱がまだ微かに渦巻いていたが、それ以上に、この男と過ごす新しい生活への期待が芽生えていた。スープをかき混ぜるたび、木のスプーンが鍋の縁に軽く触れる音が心地よく、理佐は自分がこの男に必要とされているという実感に胸が温かくなった。健太との過去が薄れ、男との未来が彼女の心に静かに根を張り始めていた。彼女は、男のために何かを作る行為に小さな喜びを感じ、キッチンに立つ自分の姿が新しい居場所だと確信しつつあった。
男が目を覚まし、寝乱れた黒髪を片手で無造作に掻き上げながらキッチンに現れた。朝の光が彼の日に焼けた顔を照らし、深い皺が刻まれた額と目の下の影を際立たせていた。彼の心には、理佐を完全に自分のものにしたという深い満足感が広がっていた。健太を追い出し、理佐の人生を自分の手中に収めた勝利感が、静かに胸を熱くしていた。理佐が用意した朝食??スクランブルエッグ、トースト、トマトのスライス、味噌汁??が小さな木製の食卓に並ぶのを見ると、男は無言で椅子に腰を下ろした。擦り切れたデニムのズボンと白いTシャツが、彼の無骨な雰囲気を強調していた。男の視線が理佐を捉え、ネグリジェ姿の彼女をじっくりと眺めた。薄いシルクが彼女の体の曲線をほのかに透かし、レースが胸の膨らみを繊細に飾っていた。男の口元に薄い笑みが浮かび、その笑みには、理佐を自分の妻として受け入れ、彼女を自分の世界に完全に組み込んだ達成感が滲んでいた。男はフォークを手に取り、ふわっとしたスクランブルエッグを一口食べると、「うまい」と低く掠れた声で呟いた。その声には、理佐が自分のために尽くす姿への満足と、彼女を自分の生活の一部として当然のように扱う気持ちが込められていた。
男の手がテーブルの下で理佐の膝に伸び、太い指がネグリジェの裾を軽く持ち上げて彼女の太ももを撫でた。節くれだった指先が彼女の柔らかな肌をゆっくりと這い、軽く圧をかける触れ方は所有欲に満ちていた。理佐の体は一瞬震え、熱い波が下腹部に広がったが、彼女はその手に抗わず、男の視線を受け入れた。男はスープをすすりながら時折理佐を見つめ、彼女が自分のために動く姿を静かに観察した。トーストを噛む彼の顎の動きや、味噌汁の椀を持つごつごつした手を見ながら、理佐は自分が男の生活に溶け込んでいる実感を覚えた。男の心は、理佐を健太の影から完全に解放し、彼女を自分の妻として生きさせる未来に確信を持っていた。この朝食の時間は、理佐を新婚夫婦のような関係に慣らし、彼女の心と体を自分のものとして定着させるための穏やかな一歩だった。男の指が理佐の太ももを軽く叩き、テーブルに戻ると、彼女は彼の無言の承認に小さな安堵を感じた。食卓の向こうで男がスープをすする音が、静かな部屋に穏やかに響いた。
理佐は男と向かい合って食事をしながら、心の中で幸福感が広がるのを感じていた。トーストを頬張る男の姿を見ていると、まるで新婚夫婦のような生活が現実のものとなりつつあることに胸が温かくなった。健太との関係が終わりを迎えた痛みはまだ胸の奥に疼いていたが、この男と過ごす日常の何気ない瞬間がその傷を癒し、新しい希望で塗り替えていくようだった。男がスープをすする姿や、卵を味わうために口を開ける無造作な仕草に、理佐は自分が誰かに必要とされている実感を覚えた。彼女の心は、この男と過ごす時間が自分にとっての本当の幸せだと確信し始めていた。健太の優しさは理佐を安心させたが、それはどこか物足りなく、彼女の深い欲望を満たすことはなかった。一方、この男の荒々しさと情熱は、理佐の心を掴んで離さず、彼女に自分が生きている実感を与えていた。理佐はトーストにバターを塗り、男の皿にそっと添えると、彼が無言で受け取る姿に小さな喜びを感じた。食卓を囲むこの時間が、理佐にとって新しい人生の始まりであり、男と築く未来への第一歩だと感じられた。彼女は男の無造作にスープをすする手つきを見ながら、自分がこの男に愛され、守られているという思いに満たされ、心が静かに震えた。スープの湯気が立ち上り、朝の光が食卓を柔らかく照らす中、理佐の決意はさらに固まっていた。この穏やかな朝食の時間が、彼女に深い安心感と喜びをもたらし、新しい生活への確信を深めていた。
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