裕子が風俗店での生活に慣れ、奇妙な充足感を見出し始めた平穏な日々は、長くは続かなかった。ある昼下がり、ホテルの部屋で彼女を迎えた客の男が、夫の会社の同僚だったのだ。彼は裕子の顔を見て一瞬驚きを隠せなかったが、すぐに薄い笑みを浮かべ、彼女の身体に手を伸ばしてきた。その瞬間、裕子の胸は恐怖と羞恥で締め付けられ、逃げ出したい衝動に駆られたが、男の視線に縛られ動けなかった。彼が彼女の腰を引き寄せ、内側に熱を押し当ててきたとき、彼女は目を閉じ、心の中で夫の顔がちらつくのを感じた。行為が終わり、男が何も言わずに去った後も、裕子の心は重く沈んだ。秘密が露わになる予感に震えながら、彼女はその日を終えた。
数日後、夫が帰宅したとき、その表情は普段と違っていた。静かに、だが鋭い口調で「昼間、何をしてるんだ」と問い詰めてきた。裕子は観念し、震える声で一部の真実を打ち明けた。パチンコで借金を作り、それを返すために夫が会社に行っている昼間に風俗で働いていること。しかし、借金取りの男たちに体で借金を払わされていたことや、風俗店を彼らが紹介したことは口にできなかった。喉が詰まり、涙をこらえながら、彼女は嘘をついた。「仕方なく、嫌々やってるの。本当につらい」と。夫の目をまっすぐ見られず、うつむいた彼女の声はか細く震えていた。内心では、風俗での日々が楽しかったこと、客の男たちに身体を預けるたびに悦びを感じていたことを隠しきれず、自分自身に苛立ちを覚えた。
夫はしばらく黙り込み、彼女の言葉をじっと聞いていた。そして、深いため息をつくと、「分かった」とだけ言った。彼は裕子の嘘を信じ、すべてを許すように彼女を抱き寄せた。そして、驚くことに、彼女の借金を全額払うと約束してくれたのだ。その優しさに、裕子は夫の心からの愛を感じ、胸が熱くなった。同時に、隠した真実が重くのしかかり、罪悪感が彼女を締め付けた。夫は彼女を愛している。それなのに、彼女はその愛を裏切り続けていたのだ。
夫が借金を肩代わりしてくれた後、裕子は風俗の仕事を辞めた。平穏な日常が戻ったように見えたが、それは表面的なものに過ぎなかった。夫はその日から夜、彼女の体を求めてこなくなった。以前は愛情を込めて触れてきた手が遠ざかり、ベッドの中で彼はただ静かに背を向けて眠るだけになった。裕子は夫の変化に戸惑い、彼の愛が冷めたのではないかと不安に苛まれた。だが、それ以上に彼女を苦しめたのは、満たされない身体の疼きだった。風俗で毎日のように客の男たちに深く満たされていた生活は、一度体験したら決して忘れられないものだった。一人が彼女の胸を執拗に愛撫し、別の男が背後から熱い衝動を解き放ち、彼女の内側を熱で満たすあの感覚が、夜な夜な身体に蘇ってきた。
静かな寝室で夫の寝息を聞きながら、裕子は目を閉じ、記憶の中の男たちの手や唇を思い出した。一人が彼女の首筋に舌を這わせ、別の男が太腿の間に熱を押し当ててくる感触が、まるで現実のように鮮明に甦る。彼女の指は無意識に自分の身体に触れ、あの悦びを再現しようとしたが、それは虚しく、届かないものだった。風俗での日々を懐かしむ自分に気付き、裕子は愕然とした。夫を裏切った罪悪感と、満たされない身体の欲求が交錯し、彼女を苦しめた。夫の隣で眠れない夜、彼女は涙をこらえながら、自分が何を失い、何を求めているのか分からなくなっていた。夫の愛に守られながらも、彼女の心と身体はあの危険な快楽を追い求め、深い闇の中で彷徨い続けていた。
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